「そろばん」の評価は今と昔とではずいぶん変わってきました。何級をもっているという資格としてよりも教育器具や能力(脳力)開発効果が大いに期待され、学校関係者や大脳生理学の見地から注目を集めています。数のしくみの理解、また算数への好影響のために小学校入学前~小学校低学年から始める方が増えてきています。今や世界各国でそろばん教育の再ブームが起きています。
近年の大脳の働きについての研究によると、人間の知能を高めるには、できるだけ早い時期から感覚が鋭くなるような訓練をして脳の働きをを高め、さらに記憶力を保つ努力を重ねることが大変重要であることがわかっています。それには、高度な指の反復練習が最も有効であり、まさにそろばんはこの原理に最適な手段の一つといえます。
手指を駆使するそろばん学習は、脳と五感に働きかけ、子どもたちが持っている様々な能力をのばします。特にあらゆる学習の基本となる集中力や根気が身につきます。
そろばんでの暗算(珠算式暗算)は、そろばんの珠を脳裏にイメージさせて計算することから始まりますが、これには右脳の協力が必要となることが河野貴美子先生(日本医科大学)の研究発表で判りました。練習を重ねていくうちに次第に右脳も活性化されていきます。
日常の生活での言葉を話す、書く、読む、見る、計算するなどはすべて左脳が働いていて、右脳はほとんど使われていないのです。しかしながら、右脳のもつ潜在能力は計り知れません。右脳は左脳に比べて10万倍もの記憶ができると言われています。そのような無限の可能性を秘めた右脳を鍛えることができます。問題解決・発明などのヒラメキは右脳から発生すると言われています。
新学習指導要領の改訂で、小学校3年生に加え4年生の授業でも「そろばん」が導入されました。
「よみ・かき・計算(そろばん)」が教育の基本に据えられ、重要な役割になってきています。
学校や学年の違う子どもたちが集まるそろばん教室では、自然とコミュ二ケーション能力が育まれ、社会ルールも身につきます。思いやりや助け合いの心を育む手助けにもなるでしょう。
百マス計算や任天堂DSのソフト監修で有名な陰山英男先生(立命館小学校副校長・大阪府教育委員会委員長)はそろばんについてこう語っています。
「高度な学習をできる子というのは、学習したことや本で読んだことを頭の中でイメージできる子です。頭の中でソロバンの玉が動くということを聞きますが、それが秘密ではないかと思ったのです。(中略・・・・)
平成16年9月から土堂小学校1年生に、そろばん学習を導入、半年後に簡単なフラッシュ暗算もできるようになり、そろばん導入が脳にどのように影響を与えるかを調べてみると、なんと知能指数平均が118と信じられない高さまで上がっていました。子ども達の授業への反応は速くなり、教師の方が次の教材の準備が大変になるほどでした。」
(著書「学力の新しいルール」文藝春秋社刊より抜粋)
そろばん学習では、時間を決めて問題を解いていきます。問題によって3分、5分、10分と時間は違いますが、その間は全部の神経を集中させます。「やめ」の合図でそろばんから離れると、ほっと一息してリラックス。この「集中」と「弛緩」を繰り返すことで集中力が養われます。普段はリラックスしていても、がんばるときはがんばることができるメリハリのついた生活態度も学べます。
「そろばんを習っている子どもは、集中するとうまくいくことを日頃から体験していますね」と金本先生。
また、忍耐力も培われます。「そろばん学習は小さい挫折と小さい達成感の繰り返し。たとえば、10けたの計算が10問あるとすると、指は約300回動かすことになります。299回動かしていても、1回だけまちがったら×で、最初からやり直しです。全力でやって、まちがいないと思って先生のところに答えを持ってきて、×をもらう。小さい挫折です。でも、次に持っていったら○だった。達成感がありますね。検定に落ちて悔しい思いをして、また自分でやっていく。そんなことを繰り返して忍耐力が育つことがそろばん学習の成果だと思います。」
級や段がはっきりあって、自分の力が目に見える形で評価されるのも自身を鍛える拠り所になっています。×がついてもへこたれず、自分のありのままを受け入れ精神的に成長していくのがそろばんの魅力。「計算力がつくのはむしろオマケだと思っています」と金本先生は言います。
そろばんと学力の関係をこれほど大規模に調査したのは初めて。今回、『エデュー』の特集にあたり、全国の珠算塾の先生方の協力を得て実現。その結果そろばんを習っている子は、算数以外のテストでも高得点をあげていました。算数という教科がいかに計算力に支えられているか。調査をみれば一目瞭然。算数のテストで平均90点以上が71%。80点以上となると、91%です。それだけではありません。算数以外の教科も好成績を上げています。国語80点以上がほぼ9割。理科と社会は8割の子が80点以上です。
アンケートでは子どもをそろばん塾に通わせている親の声も聞いています。一番多かったのは、「集中力や忍耐力がついた」、「コツコツ努力する自学自習の習慣がついた」、「自信がついた」、「物事をテキパキ処理できるようになった」などでした。そろばんを通して学習への構えが身についたということでしょうか。
また、すでに大学生以上のそろばんの上級者に話を聞くと、そろばんで身につくひとつに「暗記力」をあげる人が少なからずいます。この点も、他の教科で好成績を上げる大きな要因ではないかと思います。 (月刊誌 エデュー 2010より)
左右脳のバランスのとれた発達が、人間の成長にプラスであることは明らかです。
子どもの教育は、まず左右脳のバランスがとれるような教育を行い、その後、知識や経験を踏む、という過程が理想的であると考えられています。